夕食の後、テレビでニュースを見ていました。
そこに、人間そっくりのロボットが、映っていました。
白いドレスを着た、若い女性。 穏やかに微笑んで、瞬きをしている。 そして、彼女は、こう言うんです。
「今年で、28歳です」
ロボットの、女性が、しゃべっているんです。 そして、その顔が、本当に、人間そっくり。 瞳が動く、口が動く、表情が変わる。 シリコン製の皮膚は、うっすらとした光沢まで、リアル。
わたし、思わず、テレビの前で、
「……えっ、これロボット?」
つぶやいてしまいました。
中国の広東省深センにある、UBテック・ロボティクス(優必選科技)という会社が、開発したアンドロイド。 名前は、「U1(ユーワン)」。 先月末に、正式に発表されたそうです。
これ、ちょっと調べてみたら、けっこう、驚くことが、いろいろあって。 そして、主婦のわたしとしても、複雑な気持ちになる、いろんな要素が、あったんです。
今日は、その「中国の人間そっくりアンドロイド、U1のニュースを見て、考えたこと」を、書かせてください。 SpaceXの火星、小惑星の金採掘に続く、わたしの「ニュース調べてみたシリーズ」の、新しい一本です。
まず、U1って何?
調べてみたら、U1のスペック、けっこう、すごいんです。
①シリコン製の皮膚
顔の質感が、本物の人間の肌に、限りなく近い。 細かい毛穴の感じや、光の反射の感じまで、再現されている。 写真を見ても、パッと見ただけでは、人間なのか、ロボットなのか、判別できないレベル。
②感情を「認識」して「表現」する
搭載されているのは、生成AI。 人間の20種類以上の感情を、90%超の精度で識別するそうです。
- 相手が笑っている
- 相手が悲しんでいる
- 相手が怒っている
- 相手が疲れている
こういうのを、AIが、リアルタイムで判断する。 そして、それに合わせて、U1が、反応する。
③頭部に33の駆動部、300種類以上の表情
顔の中に、33個ものモーターが埋め込まれていて、それぞれが、細かく動く。 その組み合わせで、300種類以上の表情を作り出せる、と。
人間って、表情豊かに見えるけれど、基本的な表情のパターン、実は、そんなに多くない。 それを、300種類も再現できる、というのは、たぶん、人間の細かい表情変化を、ぜんぶカバーする、ということ。
④相手に合わせて、学習する
会話を重ねるうちに、相手の嗜好や生活習慣を記憶する。 そして、好みに合った対応を学習する。 つまり、使えば使うほど、その人向けの、パーソナライズされた対応をしてくれる。
これ、ペットや、家族に近い関係性を、狙っている感じ。
お値段は、どれくらい?
「すごいのはわかった。じゃあ、いくら?」
これ、主婦としては、いちばん気になる話。 調べたら、
- 上半身型:約280万円(11万9800元)
- 全身型:約400万円(16万9800元)
- 歩行機能もある最上位モデル:約2100万〜2400万円(88万〜99万元)
……4桁
上半身だけで、280万円。 全身型で、400万円。 歩けるモデルで、最大2400万円。
わが家の中古のミニバンより、上半身型のアンドロイドのほうが、高い。 2400万円あったら、うちのマンションが買える(郊外なら)。
これ、一般家庭向け、ではなくて、たぶん、企業向け、または、けっこう富裕層向けの、商品。 「受付業務など、企業での活用も想定」と、記事にも書いてありました。
1ヶ月で、1万3000台の受注
そして、これも、驚きの数字。
6月初旬から受注を開始して、1ヶ月で1万3000台
280万円のロボットが、1ヶ月で1万3000台。 売上金額にすると、単純計算で、上半身型だけでも、約360億円。 実際には、全身型や最上位モデルもあるので、もっと大きい数字。
中国、すごい市場です。
そして、来年から、日本など海外でも販売予定、と。 日本にも、来年、U1が、上陸するかもしれない。
わたしが、いちばん引っかかった発言
ここまで読んで、わたし、なんとなく、「すごいなあ」で、終わろうとしていました。 でも、記事の最後に、創業者のCEOの発言が、あったんです。
それが、こう。
「亡くなった方など様々な姿に似せることができ、伴侶となり得る」
……。
しばらく、画面を、見つめていました。
「亡くなった方に、似せる」 「伴侶となり得る」
これ、なんだか、簡単に、**「すごい!」**と、言えなくなる、重い提案。
亡くなった方に、似せるということ
わが家、幸い、まだ、そういう深い悲しみを、家族全体で、経験したことは、ありません。 でも、想像してみると、
もし、大切な人を亡くして、寂しくて、辛くて、たまらない時。 その人の姿をした、アンドロイドが、目の前に現れて、話しかけてくれる。 声も、顔も、話し方も、そっくり。
「もう一度、話せる」
そう思う気持ち、わからないでもない。 本当に、切実に、そう思う人が、たくさん、いるかもしれない。
でも、同時に、
「それは、本当に、その人?」
という、疑問も、湧いてくる。 その人の姿をした、機械。 その人の記憶を、学習した、AI。 それは、その人、ではなくて、その人そっくりの、別のもの。
「別のものと、話し続けることが、悲しみを癒すのか、それとも、悲しみを、長引かせるのか」
わたしには、答えは、わかりません。 たぶん、人によって、違う。 一時的に、慰めになる人もいるだろうし、逆に、現実を受け入れられなくなる人も、いるかもしれない。
これ、心理学者や、倫理学者の方々が、真剣に議論している、複雑な話らしいです。 「グリーフテック」(grief=悲しみ + tech)、という言葉も、あるそうです。 死別後の悲しみを、テクノロジーで癒す、という考え方。 賛否両論、けっこう、あるらしい。
伴侶になり得る、ということ
もうひとつ、CEOの発言で、気になったのが、
「伴侶となり得る」
これ、たぶん、一人暮らしのお年寄りや、孤独を抱える人に向けた、提案なんだと思います。
高齢化が進む中国(そして日本も)、一人で生活する高齢者が、どんどん増えている。 話し相手がいない、寂しい、という悩みは、社会全体の問題。
そこに、AIアンドロイドが、話し相手として、寄り添う。 これも、ひとつの、解決策ではあります。
でも、同時に、
「人間の代わりに、機械が伴侶になる、というのは、正しい方向なの?」
という、根本的な疑問も、残ります。
- 人間同士のつながりを、放棄することにならないか
- お年寄りの、社会からの、さらなる孤立を招かないか
- 「話し相手はロボットで十分」という社会になったら、それは、どんな社会か
このあたりのこと、たぶん、答えは、簡単じゃない。 でも、考えないといけない、大事な問い、だと思います。
主婦のわたしの、感想
これ、いろいろ考えた上で、正直な感想は、
「すごい技術。でも、なんだか、複雑な気持ち」
なんです。
技術としては、本当に、驚くべきレベル。 シリコンの皮膚、33の駆動部、90%超の感情認識、300種類の表情。 人類が、こんなものを作れるようになった、というのは、素直に、感動的。
でも、その使い方として、
- 亡くなった人の代わり
- 生きた伴侶の代わり
- 話し相手の代わり
これらの用途を、素直に「素晴らしい」とは、言い切れない、複雑さがある。
**「代わり」**という言葉を、テクノロジーが、少しずつ、埋めていく。 それは、便利なようで、人間として、大事な何かを、失っていく道、でもあるかもしれない。
ふと、思ったこと。日本の職人だったら、どうなるだろう?
このU1のニュースを見ていて、わたし、ふと思ったんです。
「日本の職人が作ったら、もうちょっと、頭とか、うまく作れそう」
これ、なんとなくの、素朴な感想でした。 でも、ちょっと調べてみたら、この直感、けっこう、根拠があったんですよ。
日本には、300年の造形の伝統がある
日本には、「顔で感情を表現する造形」の、長い長い伝統があるんです。
文楽人形の首(かしら)師 江戸時代から続く、人形浄瑠璃の世界。 人形の頭部だけを作る、専門の職人がいる。 目、眉、口が、細かい仕掛けで動く、木彫りの頭部。 役柄によって、300種類以上の首があり、それぞれ、深い感情を表現する。
能面 何百年もの伝統を持つ、能楽の面。 面自体は、動かない。 でも、俳優が首の角度を、ほんの少し変えるだけで、悲しみにも、喜びにも、見える。 「静止した造形で、動く感情を、表現する」という、驚くべき技術。
フィギュア原型師 これは、比較的、新しい世界。 秋葉原文化から生まれた、日本独自の造形の職人。 1ミリ以下の細かい造形で、キャラクターの表情を、彫り込む。 世界中のコレクターが、日本の原型師を、支持している。
特殊メイク・造形 円谷プロの怪獣造形、時代劇のかつら職人、映画の特殊メイク。 日本の職人技が、脈々と、続いている世界。
こういう伝統が、日本には、たくさんある。 「顔の造形」に関して、日本人は、世界でも、独自の系譜を持っているんです。
なぜ、日本は、こういうロボットを、量産しないのか
じゃあ、日本製の、超リアルなアンドロイド、なぜ、出てこないのか。
調べたら、実は、技術的には、日本も、世界トップレベルなんです。
大阪大学の石黒浩教授のジェミノイド、というアンドロイドは、世界でも最高峰、と言われている。 オリィ研究所のOriHime、という分身ロボットも、市場化に成功している。
でも、中国のU1のように、**「大量生産して、世界で売る」**という商品化の動きは、日本からは、なかなか、出てこない。
理由は、たぶん、いくつかあります。
①完璧を求める文化 「まだ、不気味の谷を超えていない」と、なかなか、市場に出さない。 「80%の完成度」で、売り出すのを、良しとしない。
②少量高品質の生産方式 日本の物作りは、伝統的に、少量高品質。 価格が、下げにくい。
③倫理的な迷い 「ロボットを、人間に、どこまで近づけるべきか」 「人間との代替関係を、どう考えるか」 こういう問いに、日本の技術者たちは、たぶん、慎重すぎるくらい、慎重。
一方、中国は、
「とりあえず、完璧じゃなくても、市場に出す」 「深センの巨大な部品エコシステムで、コストを下げる」 「世界市場を取りに行く」
このスピード感で、動いている。
これ、どちらが正しい、という話じゃない。 でも、「日本の造形技術が、世界に出ていく機会が、少ないのかもしれない」、と、ちょっと寂しく、思いました。
もし、日本の職人が作ったら
もし、日本の職人たちが、本気で、超リアルなアンドロイドを作ったら、たぶん、
- 目尻の張りの、微妙な角度が、違う
- 口角の非対称性(人間の顔は、実は、左右対称じゃない)を、再現する
- 頬骨の下の陰影を、丁寧に作る
- 眉毛の1本1本の流れを、植え方から、こだわる
- 髪の生え際のうぶ毛まで、再現する
こういう、**「言葉にならない、微差」**を、日本の職人は、300年かけて、追求してきた。 たぶん、その技術で作ったアンドロイドは、U1より、もう一段、リアルになる、はず。
でも、それが、市場に出てくるかどうかは、また、別の問題。 そして、たとえ、日本製の完璧なアンドロイドが出たとしても、
わたしの結論は、たぶん、同じ
「すごい。でも、生身の家族の方が、いい」
なんですよね。
技術の完成度が上がるほど、その使い道の問題は、逆に、深くなる気がします。 より完璧に、亡くなった人を再現できるほど、それは、慰めなのか、それとも、悲しみを長引かせる、呪縛なのか。 その問いは、たぶん、日本製でも中国製でも、変わらない。
わが家の場合
わたしは、思うんです。
わが家、夫がいて、子どもが2人いて、猫が2匹いて、いろんなドラマがある。 朝、夫の変な現実派コメントで、笑ったり、イラッとしたり。 子どもたちの、思春期の反抗や、素直な喜びに、振り回されたり。 ミケとソラが、じゃれあったり、喧嘩したり。
そういう、**「予想外」**の、日々のドラマ。 これが、家族と、生き物と、暮らす、リアル。
アンドロイドのU1、たぶん、けっこう、いい対応をしてくれる。 学習して、わたし好みに、なってくれる。 でも、それは、**「わたし好みに、なってくれる」**という時点で、すでに、家族との違い。
家族は、わたしの思い通りには、なってくれない(笑) 子どもは反発するし、夫は空気を読まないし、猫は自分勝手。 でも、その、**「思い通りにならない」**が、たぶん、家族の、本当の魅力。
「予想外の、他者と、暮らすこと」
これが、たぶん、生きている、ということの、本当の意味。 機械には、たぶん、真似ができない領域。
子どもたちと、U1の話
夕食の席で、家族に、U1の話をしてみました。
わたし:「今日ね、中国が、すごい人間そっくりのロボット作ったんだって」 長女(小4):「見たい!」 わたし:「テレビでちょっとやってたよ。本当に人間みたいなの」 長男(中2):「ふーん、生成AIか」 わたし:「そう、20種類の感情を認識できるらしい」 長男:「じゃあ、俺の気分もわかるってこと?」 わたし:「たぶん」 長女:「わたし、欲しい!」 わたし:「長女ちゃん、上半身だけで280万円だよ」 長女:「うわあ」
長女、値段で、興味を失いました(笑)
夫:「280万でロボット?俺は、その金あるなら、車買う」 わたし:「まあ、そうよね」
夫の、いつもの現実派コメント。 でも、けっこう、いい指摘。
長男:「でもさ、亡くなった人に、似せられるって、ちょっと怖くない?」
中2の長男が、ちゃんと、そこに、気づいてくれた。 思春期男子、たまに、いい問いを投げてくる。
わたし:「そうなの。お母さんも、それ、いちばん引っかかった」 長男:「なんか、それは、違う気がする」
長男、しばらく、考え込んでいました。 そして、
「でも、必要としてる人も、いるのかもね」
と、優しい結論。 中2、成長してるなあ、と、ちょっと感動しました。
テクノロジーと、わたしたち
このニュースを見て、わたしが、いちばん強く思ったこと。
「便利な技術と、豊かな暮らしは、必ずしも同じじゃない」
スマホがあると、便利。 でも、家族の会話が減る。 ネットで買い物ができる、便利。 でも、街の商店が消えていく。 AIが、いろんなことを、してくれる、便利。 でも、人間の役割が、どこにあるのか、わからなくなる。
テクノロジーは、進化する。 それを、止めることは、たぶん、できない。 でも、その使い方を、選ぶことは、できる。
わたしは、便利さのために、家族との時間を、犠牲にしたくない。 効率のために、生き物との触れ合いを、減らしたくない。 アンドロイドの伴侶より、夫の変なコメントを、選びたい。
これ、時代遅れかもしれない。 でも、わたしの、正直な気持ちです。
前のニュース記事との、繋がり
考えてみたら、これ、わたしの「ニュース調べてみたシリーズ」の、いい仲間になりそう。
- SpaceXの火星移住:遠い未来の話、でも、地球で暮らすことの、意味を考えた
- 小惑星の金採掘:壮大な計画、でも、目の前の家計の方が、大事
- U1アンドロイド(NEW):すごい技術、でも、生身の家族の方が、豊か
遠い、大きな、すごいニュースを見て、 近い、小さな、わが家の暮らしの価値を、改めて確認する。
これが、わたしの、ニュースとの、いちばん健全な付き合い方かもしれません。
さいごに
中国のUBテック・ロボティクスが発表した、人間そっくりのアンドロイド、U1。 シリコンの皮膚、生成AI、300種類の表情、感情認識90%超。 そして、**「亡くなった方に似せられる」「伴侶となり得る」**という提案。
すごい技術。 でも、なんだか、複雑な気持ち。
わたしは、今夜も、変な現実派コメントの夫と、思春期の長男と、素直な長女と、勝手気ままな猫2匹と、リビングで、ぐちゃぐちゃな夕食を、囲みます。
280万円のアンドロイドは、たぶん、こういうドラマを、再現できない。 そして、わたしは、これでいい、と思っています。
それでは、もし、テレビでU1のニュースを見かけたら、ちょっと立ち止まって、考えてみてください。 自分にとって、大事なものは、何なのか。 機械が代わってくれるもの、と、代わることができないもの、その線引きは、どこにあるのか。
答えは、たぶん、人それぞれ。 でも、考える時間そのものが、たぶん、これからの時代を生きるうえで、大事な時間になります。
それでは、今夜も、あなたの周りに、生身の家族や、生き物、そして、あなた自身の暮らしが、ありますように。 ぼちぼちと、大事にしていきましょう。
