ある日、スーパーのスパイス売り場で、たまたま、
「クローブ」
という小さな瓶を見かけました。
棚に並んでいた、いろんなスパイスのひとつ。 わたし、これまで、まじまじと見たことがなかったんですが、ふと気になって、手に取りました。
ラベルに書いてあった説明には、
「バニラのような甘い香り、エキゾチックなスパイス」
そう書いてある。 チャイとか、肉料理とか、お菓子作りに使われる、と。 ちょうど、最近、自家製のチャイを作ってみたいと思っていたので、
「じゃあ、これも試してみよう」
軽い気持ちで、買いました。
家に帰って、夕食の支度をする前に、ちょっと開けてみました。 小さな粒、まるで小さな釘みたいな形(これが、英語で「clove = 釘」と呼ばれる理由らしい)。
そして、瓶のフタを開けた瞬間、
「……あれ?」
バニラ、というより。 甘い、というより。
「これ、歯医者の匂いじゃない?」
まさかの、想定外。
今日は、その「クローブを買ってみたら、バニラの香りどころか、歯医者の匂いがして、家族にも不評だった話」を、お話しさせてください。 スパイスのある暮らしを、これから始めようと思っている方に、ちょっとした注意喚起、になればと思います(笑)
まず、クローブって何?
念のため、調べてみました。
クローブは、
- 東南アジア原産のスパイス(インドネシアのモルッカ諸島が原産地、と言われている)
- 正式名は「チョウジ」(日本でも、漢方薬の素材として古くから使われている)
- クローブの木の、花のつぼみを乾燥させたもの
- 古くから、料理だけでなく、薬や保存料としても使われてきた
世界中で、いろんな料理に使われている。
- インドのチャイ(ミルクティーのスパイス)
- インドのカレー(ガラムマサラの主要成分)
- 中華料理の五香粉(ゴシャンフン、八角と並ぶ重要なスパイス)
- 西洋料理の煮込み料理(ポークの煮込みなど)
- お菓子(クッキー、ジンジャーブレッドなど)
すごく由緒正しいスパイスで、世界中で愛されてきた。 **「バニラのような甘い香り」**と紹介されることが多い。
ラベルに書いてあった通り、なんだか高級そうで、エキゾチックな雰囲気を感じる、はずでした。
「歯医者の匂い」の正体
家に帰って、瓶を開けて、わたしが嗅いだ、あの**「歯医者の匂い」**。 これ、わたしの気のせいかな、と思って、調べてみたんです。
そしたら、答えが、すぐにわかりました。
クローブの主成分は「オイゲノール」という物質
そして、
「このオイゲノールが、歯科治療で使われる薬剤の主成分の一つ」
なんだそうです。
つまり、
「クローブ = オイゲノール = 歯医者で嗅ぐ匂い」
これ、もう、構造的に一致している。 気のせいじゃなかった。 **「バニラの香り」と言われても、わたしの脳は、「歯医者だ」**と認識する。
なんで、クローブの成分が、歯医者で使われているのか。 さらに調べたら、
- オイゲノールは、鎮痛作用がある(歯の痛みを和らげる)
- 防腐・殺菌作用もある(虫歯の進行を抑える)
- 歯の神経の治療(根管治療)で、長年使われてきた
だから、歯医者さんで治療を受けた人は、必ず、この匂いを嗅いだことがある。 わたしたちが「歯医者の匂い」と認識しているのは、実は、クローブ(オイゲノール)の匂い。
クローブの匂いを嗅いで「歯医者だ」と思うのは、ある意味、正確な認識だったんですね。
「バニラのような」は、誰の感覚?
ここで、わたしには、ひとつ疑問が残りました。
**「じゃあ、なんで、クローブが『バニラのような甘い香り』と紹介されるの?」
調べてみたら、これも、ちょっと面白い話。
- クローブを少量、料理に使うと、確かに、ほんのり甘い香り付けになる
- 大量に嗅ぐと、ピリッとした薬っぽさのほうが強くなる
- 慣れている人は、甘さを感じやすい
- 慣れていない人は、薬の匂いとして認識しやすい
つまり、
**「バニラのような甘い香り」**というのは、料理に少量使った時の、最終的な印象
**「歯医者の匂い」**というのは、スパイスをそのまま嗅いだ時の、原液っぽい印象
両方とも、正しい。 ただ、わたしのような初心者が、スパイス売り場で買ったばかりの瓶を開けて嗅ぐと、確実に「歯医者」になる。
スパイスのラベルの「○○のような香り**」って、けっこう、上級者向けの表現なんだな**、と、改めて思いました。 バニラ、と書いてあったら、バニラを期待する。 でも、実物は違う。 これ、たぶん、いろんな高級スパイスで、同じ現象が起きてる気がする。
家族の反応
買って数日後、思い切って、チャイを作ってみました。
レシピを見ながら、
- シナモン
- カルダモン
- ジンジャー
- クローブ(これ、たった1〜2粒で十分らしい)
- 黒胡椒
これらと、紅茶と、ミルクと、お砂糖。 全部を煮て、できあがり。 本格的なインドのチャイ、らしき何か。
家族に出してみました。
夫:「お、何これ、なんかいい匂い」(これ、わたしの努力を一応評価する優しい夫) 長男(中2):「……なんか、なんかさ……変な匂いする……」 長女(小4):「お母さん、これ、味、なんていうか、薬っぽい!!」
長女、一口で、即時、コップを置きました。 長男も、ちょっと飲んで、無言。
**「歯医者の匂いがする」**と、長女。
ええーっ。 わたし、けっこう、ちゃんとレシピ通りに作ったつもりだったのに。 クローブも、たった1粒しか入れてないのに。 それでも、子どもには、**「歯医者」**として認識される。
夫だけ、なんとか飲み干していました。 「大人向けの味だな、これ」と、フォローしてくれましたが、本人も、本当はそんなに気に入っていなかった顔。 わたしが残ったチャイを飲んで、結局、わたしだけが、けっこう気に入った、というのが、その日の結末。
子どもには、なぜ不評なのか
子どもがクローブを嫌う理由、これも調べてみました。
ひとつには、
「慣れていない味と匂いだから」
これ、当たり前といえば当たり前。 子どもの味覚は、大人より敏感で、慣れていないものを「異物」として認識しやすい。 クローブのような独特の香りは、慣れている大人なら「エキゾチック」と感じるけど、慣れていない子どもには「変な匂い」になる。
もうひとつ、
「歯医者の連想」
子どもは、歯医者に行ったことがある。 治療の記憶と、クローブの匂いが、結びついている可能性がある。 わたしの長女は、半年前に、初めての歯の治療を受けたばかり。 その記憶が新鮮なので、「この匂い、歯医者!」となるのは、自然なこと。
つまり、
- クローブ自体が嫌い、というより
- その匂いと結びつく記憶が、子どもの中で不快
ということなんですね。
これ、人間の認識って、本当に面白い。 同じ匂いを嗅いでも、その人の経験や記憶によって、感じ方がまったく違う。
わが家のクローブ、その後
買って1年経ちますが、わが家のクローブ、まだ、瓶の中に残っています。
使い切るには、けっこう時間がかかるスパイス。 1回に使う量が、たった1〜2粒。 何回作っても、ぜんぜん減らない。
そして、子どもたちは、もう、わたしがチャイを作ろうとすると、
「お母さん、それ、入れないやつでいい」
と、先回りして言う(笑) クローブの存在感、確実に、わが家の食卓では「入れない方がいいスパイス」として、認定されてしまいました。
でも、わたしだけは、たまに、ひっそりと使っています。 夕食の煮込み料理に、ちょっとだけ入れて、自分の分だけ、深い味わいを楽しむ。 これも、母親の小さな楽しみ。 家族には**「ちょっと変な匂いするけど、まあ、いいか」**と、見て見ぬふりをしてもらう。
クローブは、使い方に注意
ここで、ひとつ、書いておきたいこと。
クローブは、けっこう強力なスパイスで、
- 入れすぎると、味も匂いも、ものすごく強くなる
- 目安は、料理1人前あたり、1〜2粒
- 大量に摂取すると、胃腸に負担をかけることもある
- オイゲノールが、薬と相互作用することがある(血液をサラサラにする薬を飲んでいる人は、特に注意)
「ちょっとくらい多めに入れちゃおう」が、いちばんダメ。 少量で、ちゃんと効くスパイスなので、レシピ通りに。
特に、
- 小さな子どもへの食事
- 妊娠中の方
- 持病があって、薬を飲んでいる方
これらの方は、念のため、お医者さんに相談してから使うのが安全だそうです。
スパイスは、ただの調味料、と思いがちですが、昔は薬として使われていたくらい、強い成分を持っています。 わたしも、これを知ってから、ちょっと慎重に使うようになりました。
カラスとうろこ雲と、クローブ
これ、また、わたしの「観察と中庸」シリーズの仲間入り、できる気がしています。
カラスがうるさいときに雨が降るのか、調べたら、当たったり外れたり。 うろこ雲が出ると3日以内に雨が降るのか、調べたら、7割は当たる。 台風予報は、70%の確率で予報円に来る。
そして、
**「バニラのような甘い香り」**と書かれていたクローブを買ってみたら、歯医者の匂いだった。
世の中、書かれていることと、実物が違うことって、けっこうある。 自分で買って、自分で嗅いで、自分の体で確かめないと、わからない。 これも、人生の小さな教訓。
そして、
「人によって、感じ方が違うこと」
これも、改めて思いました。 クローブを「バニラのよう」と感じる人もいれば、「歯医者」と感じる人もいる。 どっちも、間違っていない。 正解は、ひとつじゃない。
子どもたちのその後
それから、わたしは、子どもたちに「歯医者の匂いのスパイス」を出すのを、控えるようになりました。
でも、面白いことに、長女が、
「お母さんが買ったあの匂いのスパイス、まだあるの?」
と、ちょっと懐かしそうに聞いてきたことがある。 「あるよ。なんで?」と聞いたら、
「もう一回、嗅いでみたい」
って。
そして、瓶を開けて、ちょっとだけ嗅いで、
「やっぱり、歯医者」
と、笑っていた。
子どもって、なんだか、不思議。 嫌いだったはずのものを、わざわざ確認しに来る。 たぶん、**「この匂いがあるんだ」**という体験を、心の中で整理しているんだろう、と。 これも、子どもの世界の、面白いところ。
さいごに
スーパーで、ふと手に取ったクローブ。
買って、嗅いで、家族にも嗅いでもらって、チャイにして、不評で、結局、わたしだけが、ひっそりと愛用する。 そんな、ちょっとした冒険でした。
「バニラのような甘い香り」と書かれていたラベルと、わが家の食卓での評価が、こんなに違うとは。 スパイスの世界の奥深さを、ちょっと感じた出来事でした。
それでは、もし、あなたも、スパイス売り場で「バニラのような香り」と書かれたものを見かけたら、念のため、買う前に、店員さんに「これ、歯医者の匂いって言われませんか?」と聞いてみてください。 正直な答えが返ってきたら、たぶん、それは、クローブ系のスパイスです。
そして、もし家族で「歯医者の匂い、入れる派・入れない派」で意見が分かれたら、入れない派の意見を、ちゃんと尊重してあげてください。 家族の食卓は、みんなで楽しむもの。 自分の冒険は、自分の分だけで。
それでは、夏のスパイスのある暮らし、ぼちぼち、楽しんでくださいね。
