夕食のニュースで、こんな話が流れてきました。
「住宅街にアライグマが出没、農作物の被害も深刻」
家のテレビ画面に、夜の街中をうろうろするアライグマの映像。 わが家の食卓では、
夫:「最近、近所でもアライグマ出たらしいよ」 長女(小4):「アライグマって、ラスカルじゃないの?」 長男(中2):「ラスカルって何?」 わたし:「お母さんが小さい頃のアニメ。可愛いアライグマの話」
長女、ピンとこない顔。 長男、もっとピンとこない顔。 夫、「でも、近所のアライグマは、可愛い感じじゃないらしい」と。
そこで、ふと思ったんです。
「アライグマって、いつから日本にいるんだろう?」
そういえば、アライグマって、もともと日本の動物じゃないはず。 じゃあ、なんで、住宅街に出没するようになったのか? 気になって、調べてみました。
そしたら、けっこう、考えさせられる歴史があったんです。
今日は、その「アライグマがなぜ日本に増えたのか、調べてみた話」を、お話しさせてください。 ミケとソラ(うちの猫2匹)を見ながら、ちょっと考えたことも、含めて。
まず、アライグマの基本情報
調べたら、アライグマは、もともと北アメリカ原産の動物。 日本には、本来、いなかった種類です。
サイズは、犬の小型犬くらい。 体重5〜10キロ前後。 特徴は、
- 目の周りに黒い模様(あの可愛い顔)
- しっぽにシマシマの模様
- 手先がとても器用(物をつかめる、ドアを開けられる、ということもある)
- 雑食(なんでも食べる)
- 夜行性
そして、手先が器用すぎるのが、後の問題につながっていきます。
いつから、日本に来たのか?
ここからが、調べていて、「えっ」となった部分。
日本でアライグマが最初に野生化したのは、
1962年、愛知県犬山市の日本モンキーセンター
ここで飼育されていた12頭のアライグマが脱走。 そのうち2頭が回収できず、野生化が始まったそうです。
12頭脱走して、2頭が見つからなかった。 これだけ聞くと、よくある動物園の事故、というレベル。
問題は、ここからでした。
1977年、ラスカルが日本中で流行った
1977年、テレビアニメ**「あらいぐまラスカル」**が放送開始。
これ、わたしも、子どもの頃に再放送で見た記憶があります。 アメリカの少年スターリングが、アライグマのラスカルと暮らす1年間の物語。 ラスカルが、本当に可愛くて、わたしも憧れました。 「アライグマって、なんて可愛いんだろう」と。
このアニメが、当時の日本で、ものすごい人気になりました。 そして、それと同時に起きたのが、
ペットとしてのアライグマブーム
なんと、年間1,500頭ものアライグマが、ペットとして輸入されたそうです。 1年で1,500頭。 これが、何年も続いた。 日本中のお宅で、アライグマがペットとして飼われ始めた。
ラスカルは、悪くないんです
ここで、誤解しないでほしいのは、
ラスカルというアニメ自体は、悪くない
ということ。 原作はアメリカの作家、スターリング・ノースさんの1963年の小説。 作者の少年時代の実話に基づいた、心温まる物語です。 そして、アニメの最終回では、ラスカルを森に返すシーンがある。 「動物は、自然の中で暮らすのが一番幸せ」というメッセージで終わる。
これ、たぶん、原作者もアニメの制作者も、本当に大事なメッセージとして込めたんだと思います。
問題は、
「日本の視聴者が、最終回のメッセージより、ラスカルの可愛さに反応してしまった」
ということでした。 「自分も、ラスカルを飼いたい」 「こんなに可愛い動物を、家族にしたい」 そう思った人が、たくさんいた。
そして、輸入されたアライグマが、日本中の家庭に。
ここから、悲しい連鎖が始まった
調べていて、いちばん「ああ、そうか」と思ったのが、ここでした。
ペットとして家に来たアライグマ、最初は可愛い。 でも、
①成長すると、性格が変わる
赤ちゃんアライグマは、おとなしくて可愛い。 でも、生後10ヶ月くらいで性的に成熟すると、性格がガラリと変わる。 噛む力が強く、攻撃的になり、家具を破壊する。
②手先が器用すぎる
冷蔵庫を開ける、引き出しを開ける、ドアを開ける。 家の中を、好き勝手に荒らす。 飼い主は対応に追われる。
③声と臭い
夜行性なので、夜中に騒ぐ。 同じ場所で排泄する習性から、糞尿が悪臭を放つ。
④結果として、飼育を諦める飼い主が続出
最初は「ラスカルみたい」と思って飼い始めた家庭が、数ヶ月〜1年で「もう手に負えない」となる。
そして、ここで、悲しい選択が起きました。
「動物は自然の中で暮らすのが一番、というアニメのメッセージを思い出して、森に逃がす」
これ、すごく皮肉な構図なんですよ。 ラスカルの最終回の優しいメッセージが、現実では、「飼えなくなったアライグマを森に捨てる言い訳」として機能してしまった。
日本中で、こういう遺棄が、たぶん何百件、何千件と起きた。 ペットの脱走も多発。 そうやって、日本の野山に、アライグマが定着していったんです。
「特定外来生物」に指定されるまで
野生化したアライグマは、日本各地で繁殖を続けました。
問題が顕在化したのは、もっと最近。
- 1998年:日本哺乳類学会が、アライグマの駆除を求める決議
- 日本生態学会が「日本の侵略的外来種ワースト100」のひとつに選定
- 2005年:外来生物法施行、アライグマは特定外来生物に指定
これ以降、アライグマの飼育・輸入・運搬・販売は禁止。 今、もしペットショップで「アライグマ」を見ることがあったら、それは違法です。
なぜ、こんなに問題なのか
アライグマの何が問題なのか、調べたら、いくつかありました。
①農業被害
雑食で、農作物を食い荒らす。 特に甘いもの(トウモロコシ、スイカ、果物)が大好物。 年間の農業被害額は、推定3〜4億円にもなる。
②家畜・ペットへの被害
雑食なので、鶏のような家畜や、小さなペットを襲うこともある。 ニワトリ小屋に侵入して、根こそぎ食べてしまう事件も。
③日本固有の生態系を壊す
タヌキ、アナグマ、サンショウウオ、両生類など、日本本来の動物が、アライグマに食べられたり、住む場所を奪われたりする。 日本にいなかった動物が、日本の生態系を壊している。
④人間に病気をうつす可能性
調べていて、これがいちばん怖かった。 アライグマは、
- 狂犬病(キャリアとして知られる)
- アライグマ回虫(人にも感染、重症化する場合あり)
- レプトスピラ症
など、人にもうつる病気を媒介することがある。 日本では今のところ狂犬病の報告はないけれど、もし発生したら、本当に大変なことになる。
**「可愛いから、触ってみたい」**は、絶対にやめたほうがいい。
わたしが「ああ」と思ったこと
ここまで調べて、わたしが感じたこと。
「可愛い、というだけで動物を選ぶことの、怖さ」
ラスカルがブームになった当時、日本中の家庭が「可愛い」を入り口にして、アライグマを家族に迎えた。 でも、アライグマは、ペットとして改良された動物じゃない。 野生のまま、可愛い見た目の野生動物。 それを家に入れて、長く幸せに暮らすのは、本当に難しい。
これ、今のSNS時代でも、似たことが起きている気がします。 「動画で見た、あの動物が可愛い」 「わたしも、あんな動物と暮らしたい」 そう思って、本来ペットに向かない動物を飼おうとする人がいる。
そして、飼いきれずに、最終的に捨てる、または保健所に持ち込む。 これが、令和の今でも、繰り返されている。
ミケとソラを見ながら、考えたこと
調べた後、わが家のミケ(雌・9歳)とソラ(雄・1歳)を見ながら、ちょっと考えました。
うちの猫たちは、何千年もかけて、人間と共に暮らせるように、少しずつ適応してきた動物です。 猫だって、もともと野生動物。 でも、長い時間をかけて、家の中で暮らせるように、人間との関係を作ってきた。
それを、わたしたちが、いま、ペットとして家族にする。 これは、長い歴史の積み重ねの上に成り立っている関係。
アライグマは、まだその段階に達していない動物なんですね。 ラスカルのアニメで可愛く見えても、それは、ある人と特別な絆を結んだ1匹のアライグマの話。 野生動物全般を、家の中で飼える、ということでは、決してない。
ミケがわたしの膝の上で寝ているのを見ると、本当に、長い時間をかけて、人間と猫が築いてきた関係の重みを感じます。 これ、当たり前のように見えるけど、すごいことなんですね。
子どもたちに、伝えたいこと
夕食の後、長女に、調べた話をしました。
わたし:「ラスカルね、アニメは可愛いけど、実は、それで日本中でアライグマを飼っちゃって、後で大変なことになったの」 長女:「ええっ、そうなの?」 わたし:「動物って、可愛いだけで選んだら、ダメなんだよ。その動物が、人間と一緒に暮らせる種類かどうかも、ちゃんと考えないと」 長女:「ミケとソラは、大丈夫?」 わたし:「猫は、ずっと昔から人間と一緒に暮らしてきた動物だから、大丈夫」
長女、ちょっと真剣な顔。 「じゃあ、わたしが動物欲しい、って言っても、ちゃんと考えてからじゃないとダメだね」 そう、考えて欲しいの、と、わたしは答えました。
中2の長男も、横で聞いていて、 「結局、人間が悪いんじゃん」と、ちょっと辛辣なコメント。
それは、ある意味、正しい。 動物には罪がない。 日本の野山にいるアライグマも、もとはと言えば、日本人が連れてきて、捨てた結果。 彼らも、生きようとして生きているだけ。
駆除の話、複雑な気持ち
ここでひとつ、複雑な話があります。
アライグマは特定外来生物に指定されているので、駆除の対象になっています。 箱わなで捕まえて、処分される。 日本の生態系を守るためには、必要な措置、とされている。
これ、頭ではわかるんですよ。 でも、心では、ちょっと、つらい。
「人間が連れてきて、捨てて、それを今度は人間が殺す」
これ、命に対して、責任を持つということの、本当に重い側面ですよね。 わたしたち日本人が、過去にやったことの責任を、今、誰かが取らなくてはいけない。
ペットを飼う、ということは、その動物の一生に対する責任を負う、ということ。 1匹の動物を選んだ瞬間から、その動物が老いて死ぬまで、ちゃんと面倒を見る覚悟が必要。 「飽きたら、自然に返せばいい」では、絶対にダメ。
ラスカル世代の失敗から、わたしたちが学ぶべきこと、たぶん、ここなんだと思います。
さいごに
夕食のニュースから始まった、アライグマの調査。
可愛いアニメのキャラクターだった、はずのアライグマが、今、日本の生態系を脅かす存在になっている。 その背景には、わたしたちと同じ世代の人たちが、可愛さだけでアライグマを飼って、責任を取りきれなかった、という歴史があった。
これ、わたしたち主婦が、子どもたちに伝えていける、大事な話かもしれません。
「動物を飼うのは、その命を引き受けること」 「可愛い、というだけで選んじゃいけない」 「自分が選んだ命に、最後まで責任を持つこと」
ミケとソラが、わが家に来てくれて、本当によかった。 そして、この子たちが幸せに一生を終えられるように、ちゃんと面倒を見たい。 それが、わたしの、飼い主としての責任。
それでは、もし、お子さんが「動物を飼いたい」と言ってきたら、一緒に、その動物のことをちゃんと調べてあげてください。 そして、家族として最後まで暮らせるかどうか、しっかり話し合ってあげてください。 それが、たぶん、いちばん優しい選択になります。
